加藤の相場展望< 番外編 1 >
今年は年初から『相場展望&番外編』の配信が多いですが、覚悟していた以上に相場の乱高下が激しいので、お察しいただければと存じます。
昨日は今年に入って早くも2度目となるザラ場中の1000円幅下落(実際の最大瞬間風速は▲1032円)に見舞われる異常事態となりました。
2月の市場暴落時より身構えるところはあったものの、年初来安値であった20937円も瞬間的に貫通して下落したことによって、恐怖を感じる投資家は少なくなかったことと思われます。
あすなろ会員様におかれましても、ほぼ安値引けしていることを考えれば不安なまま休日を迎えていらっしゃることと思います。
市場の動向は依然として不透明なままですが、現状認識と今後の戦略をいま一度確認しておくことが必要になります。
世界株安、市場暴落時の恒例となりますが、まず投資家心理を確認します。
VIX指数は不正操作疑惑が持ち上がっておりましたが、3/23時点のものを確認しますと、米国:24.87(前日:23.34)、欧州:21.08(前日:18.55)、日本:27.00(前日:20.64)となっており、日本が突出して高く、また前日比でみても極端に跳ね上がっていることが分かります。
次に個人投資家のセンチメントに焦点を当てるために最新の先週時点での信用評価損益率を確認しますと、▲8.56%で信用倍率は4.17倍。よって、先週末時点では日経VIも21.79で信用買い残が多く積み上がっているため、センチメントはそれほど悪くなかったことが確認されます。
逆を言えば、この一週間の間で信用評価損益率は2月暴落時の▲10%台を再び記録している可能性があります。
では、昨日の下落要因を見ていきたいと思いますが、当然ながら世界株安の震源地は米国に他なりません。
以前からお伝えしておりましたように、NYダウは三角保ち合いを下放れ、再度2月安値の23360ドルを伺う下値模索となっております。
“米国が風邪をひけば日本は肺炎になる”ような連れ安を演じてしまうのが日本市場の哀しい事実ではありますが、いくらなんでも1日で5%近い下落は明らかに異常事態と言えます。
2/6暴落時の日経平均は最大値幅で1604円、下落率は7.07%に達しておりましたが、引けにかけては押し目買いや空売りの買い戻しもあって下げ幅を縮小、4.7%下落で結果だけ見れば今回よりも下落率は小さくなっておりました。
こうなってくると、余計に昨日の下落要因が気になってくるかと思いますが、最も大きな影響を与えたと考えられるのが“ヘッジファンド等による空売り”です。
昨日の空売り比率は50.3%で過去最高を記録、中でも「価格規制あり」が41.3%に達し、こちらも直近の中では最高の値となっています。ちなみに「価格規制なし」も9%と比較的高い値ですが、これは個人や裁定取引、VWAP保証取引のヘッジ売りなどで構成されています。
以前のコラムでもこの空売り比率について解説したことがございますが、そもそも空売り比率とは市場の売買における「売り」の総量の中で、現物売りと空売りの割合を示した指標です。
つまり、昨日の下落の大半は大量の空売りによるものであったと考えられるわけです。
しかし、誤解の無いようにこれは繰り返しになりますが、当日中の手仕舞いも含まれますので、その日の事実であって、先行きの下落を示すものではありません。
とはいえ、1月第2週から続いている海外投資家のおそらく8兆円を超えているであろう売り越し基調と、空売り比率の40%を超える水準での高止まりは“意図的な相場下落によって利益を得よう”としている思惑を疑わざるを得ません。
従来、この空売り比率については、過去のリーマン・ショック後でさえも空売り比率30%超えで危険水域とされておりました。当時は35%で過去最高を記録と話題になったものです。
ではなぜ、ここまでの暴挙が可能になってきたのかと申しますと、2月暴落時にも指摘したHFT取引(超高速取引)が大きな役割を果たしており、今や日本市場ではHFT取引による売買高は全体の売買の6割にも達しているとされています。
これまではいかにヘッジファンドと言えども人間が行う裁量トレーディングでは「アップティック・ルール」というのがあり、直前の取引価格より高い値段でしか売ることができませんでした。
もちろん、大量の成行注文で売り崩すことなんて出来なかったのです。
しかし、東証で2010年1月4日から次世代売買システム「Arrowhead(アローヘッド)」が稼働し、今では2000分の1秒単位で注文を処理できるまでに高速化されたのに加えて、この自動発注機能を有するコンピューターを用いたHFT取引も進化を遂げ、気配情報の取得及び注文の送信にそれぞれ片道数十マイクロ秒以下にまで短縮されている現実があります。
以前、金融犯罪の中で「見せ板」などの“相場操縦”で処分を受けた投資サークルなどの事例に覚えがある方も多いかと思いますが、例えば“見せ板”は買い注文を沢山出して、他の市場参加者に多くの需要があるのうに思わせて高値で買わせたり、反対に売らせたりするもので、個人投資家が行うのは禁止されていますが、コンピューターは瞬間的な取引で売り、買い両方の注文を常に出しながら、上記の「アップティック・ルール」や「見せ板」などの行為をすり抜けて注文執行しているのが実状です。
ですから、以前は空売り比率がここまで高まるような事態も現実的に起こり得なかったことでしたし、こうしたアルゴリズム取引をめぐっては各国でも規制が敷かれ、取引業者を把握するために許認可制をとったりしているのですが、残念ながら日本ではそこまで規制が厳しくなく、むしろ“やりたい放題”となっているのが現状なのです。
こうした事態をうけて日本取引所グループは今年4月から売買動向の把握に乗り出すとしており、売買を発注する証券会社の事前申請のほか、注文ごとに取引戦略の明示を義務付けることを発表しています。現在、日本で取引を行う60〜70社のHFT取引業者が規制の対象になるとされており、取引の透明性向上や価格の急変動、不公正取引の抑止に動くようです。
どこまで実効性・速効性があるかは分かりませんが、売買の流れを把握できるようになれば先読みの判断材料も増えることにつながりそうです。
まずは昨日の下落の要因を解明したうえで、やられっぱなしは良くありません。投資家はいつでも不屈の闘志をもって相場に臨んでいかなくてはなりませんので、今後の展望と戦略を『加藤の相場展望< 番外編 2 >』で考察していきたいと思います。
【 人 生 の 格 言 】
『相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく』
(アメリカ著名投資家 ジョン・テンプルトン)
それでは、来週に希望をつないで慎重にかつ大胆に取り組んでまいりましょう。
執筆:加藤あきら
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